四季それぞれに美しい移ろいを見せる日本の風土は、人々に豊かな恩恵をもたらしてきました。そんな日本独特の風土で、日本独特の宗教・修験道は発展してきたのです。
修験道とは修行得験、実修実験の道と言われます。山中深く分け入り、自らの身心を使って限界まで修行をする、それによって様々な験(しるし)を得ていく、そういった実践の宗教なのであります。
開祖は役行者(諡号神変大菩薩)。7世紀に活躍した山岳修行の祖であります。役行者の開いた修行の道は、日本古来の山岳信仰に、神道や仏教・道教などの外来思想を包含しながら、平安期から中世にかけて、修験道として体系化されていきました。
しかし学問的なことはさておき、大自然の中に身を置き、自然と目の当たりに対峙することで、人間力を鍛えていくという修行性は、物質文明のほころびに悲鳴を挙げつつある現代において、貴重な示唆を与えてくれています。
また修験道の歴史は常に庶民の歴史であったことも見逃せないでしょう。よく日本仏教の庶民化は鎌倉以後の法然、親鸞や日蓮をはじめとする新仏教が担ってきたと言われていますが、実はそれ以前から日本仏教の基層には修験道的なものが脈々と流れています。豊かな大自然に育まれてきた日本人の有り様は、修験道的な宗教観、つまり、山を拝み、火を拝み、水を、風を…あらゆる人間を取り巻くものたちを拝みながら行じていく、そういう宗教観を生んできたのではないでしょうか。また巷にあって、庶民の願いに応じては種々の加持祈祷に携わってきたこと、これも修験者の大きな役割のひとつであります。修験道こそ優婆塞(在家)宗教の元祖なのです。
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